◆「館長のつぶやき」が更新されました。今回も「秘書のつぶやき」です。秘書も荷風に惹かれ始めたようです。『すみだ川』あたりでとどまっていてくれることを願います(笑)。
◆「21世紀の木曜会」に「【金沢ブログ】まいどさんが案内」を連載しています(8回連載)。おかげで、とても好評です。続編も掲載しました。
◆「館長の部屋」に「犀星『忘春詩集』と母」を掲載しました。2回連載が終了した後、「文豪と本郷」の連載を開始しました。
◆「館長の部屋」の「桐生悠々」は連載が完結しました。桐生悠々は徳田秋聲の親友です。
◆「ブログ」の「【館長の部屋】文豪と吉原」の連載は完結しました。NHK大河ドラマ『べらぼう』の影響か。引き続きよく読まれています。
◆「【館長の部屋】鏡花『葛飾砂子』を歩く」の連載も完結しています。
◆「館長の部屋」に、連載していた「講演:漱石からみた啄木」は完結しました。
◆過去に掲載された文章は「ブログ」の方が探しやすいと思っています。「ブログ」では過去に掲載した、さまざまな文章が読まれています。『草枕』に関するもの、「犀星実父」に関するもの、「福音館書店」に関するもの、また、「文豪と麹町②」も、よく読まれています。このところ、北陸新幹線延伸に関して、小浜ルート、米原ルート、さまざまな議論がされています。そのような関係から、「金沢ブログ」の「北陸新幹線~敦賀延伸に寄せて」の記事がよく読まれています。ありがとうございます。
◆「ブログ」では「詩集 団塊のひとりごと」を掲載しています。時おり中断して、他の連載などが入ります。
【秘書のつぶやき】
秘書の北澤みずきです。前回のつぶやきでご紹介した竹内洋著『学歴貴族の栄光と挫折』のプロローグとして、学歴貴族になりそこねた荷風が書いた小説『すみだ川』が紹介されていましたので、さっそく読みました。荷風の学歴貴族に対する姿勢が読み取れるというのですから、読まないわけにはいきません。館長に地理的関心を抱かせるタイトルですが、秘書のわたくしは専門外ですので、地理については館長に譲ります。
『すみだ川』は明治42(1909)年に発表されたもので、荷風が29歳のときの小説。俳諧師の松風庵蘿月(しょうふうあんらげつ)には妹のお豊がいて、夫に先立たれ、今は常磐津の師匠をして生計を立てています。お豊には長吉という18歳になる一人息子がいます。
《商人はいつ失敗するか分らないという経験から、お豊は三度の飯を二度にしても、行く行くはわが児を大学校に入れて立派な月給取りにせねばならぬと思っている。》とあり、息子の出世がこの世の楽しみとして描かれます。
蘿月はお豊にこんなことを言います。
「大学校まで行くにゃまだよほどかかるのかい。」
お豊は答えます。
「来年卒業してから試験を受けるんでさアね。大学校へ行く前に、もう一ツ……大きな学校があるんです。」
お豊がいう「大きな学校」とは旧制の高等学校のこと。長吉が目指す大学校は、私立大学ではなく、官立の帝国大学であることがわかります。
長吉には幼なじみのお糸がいて、芸者になる道を歩んでいる。お糸が好きな長吉は、勉強をすることが嫌になり、役者になりたいと伯父の蘿月に相談しますが「今の学校を卒業するように」と言われ、長吉は自分を助けてくれないと失望します。そして自暴自棄となり薄着のまま出水した泥だらけの町を徘徊し、腸チフスにかかってしまいます。
蘿月は長吉を看病しているときに、お糸あての手紙を見つけます。自分の望みは遂げられないので病気になって死ねばよいと書かれていたのです。長吉の自殺行為に、自分のアドバイスを後悔した蘿月が《どんな熱病に取付かれてもきっと死んでくれるな。長吉、安心しろ。乃公(おれ)がついているんだぞと心に叫んだ。》ここで小説は終わります。
竹内氏は《長吉に、病弱で繊細な十数年前の永井壮吉(荷風の本名:引用者注)が投影されていることはまちがいない。》また《蘿月は山の手の生まれにもかかわらず、「若い時分したい放題身を持ち崩し」、下町で風流三昧に耽る落伍的人物だが、ここにも荷風自身が重ねられているだろう。》と指摘します。
確かに、この小説に出てくる受験勉強や役者になることには、一高を受験して失敗した荷風の考え方が反映されているのだと思います。
「館長の部屋」では「文豪と本郷」の連載が始まっています。東京大学の隣には旧制一高がありました。本郷の一地区は学歴貴族のまちであるともいえるでしょう。ぜひお読みください。
(『
館長のつぶやき』より)